38. "kill time"

つれづれに筆を滑らせて、時間を消していく。

英語ではこういう時に物騒な言い方をするのですね。「時を殺す」だなんて。
でも、今の気分にはぴったりです。なにしろあなたと過ごした時間の記憶を殺そうとしているのだから。
これでも裕かな時を過ごせていたと思っていたんですよ。さよならの一週間前くらいまでは。でもそれも偽りにまみれたものだったと思ったら、なんだか合点が行ってしまったのが、今この夜明けのひととき。惨めだけれど、変な高揚感がありますね。
あなたと暮らした部屋が、今は書き割りセットやハリボテのように思えてしまうなんて、そんな日が来ると思いもしませんでした。

あなたの気持ちが離れたのは、実は籍を入れて割とすぐにわかりました。
あなたは自分を籠に入れない小鳥のようなものと言っていたから、私は籠ではなくて止まり木でいようとしたつもり。あなたが羽根を休める最良の場所でいたかった。恐らく私の最大の失敗はそれです。
あなたを縛り付けるべきだった。そうしたら自由を奪った私への憎しみと、私を謀っても自由を得ようとするあなたへの憎しみを通して、きっと私たちは向かい合えたはず。そういう形でしか私たちは愛し合えなかったような気が、今となってはします。

さよならのきっかけになった諍いそのものはもういいのです。あなたが今いる相手を選んだこと。それが私の耳目に届いたことがすべて。どんなエクスキューズも無意味。
私ね。あなたが思っているほど安くないんです。
私との時間を拒んだ結果選んだ相手が彼女なら、もうそれが全て。あの程度の相手と私を天秤にかけるあなたを、もう二度と信じることはできないから。
私へのあてつけなら、最悪のところを選んでしまいましたね。
あなたが私との日々の陰で、彼女とも関係を戻していたとは思いたくない。けれど今彼女といるということは、真実のありかを大まかには指し示しているということ。

そう、それと私が不快なのは、あなたが私との日々で出会い、あなたのものにもなっていった人々との縁やコネクションを、弊履のごとく捨て去ったこと。
私の匂いのするものを切り捨てたければそれもいい。
けれど、あなたのway of lifeをきっと裕かにしてくれた私の友人たちまで切り捨てたことは、とてもとても不快。
今あなたが歩いている場所のありようを考えると、きっとあなたとは人と人っていう対話も成り立たないのでしょうね。これからなにかの間違いであなたとこの世界で出くわしても、人の言葉も心も解さない、そうね、馬か何かだと見なすことにします。

これでさようなら。
あなたの未来に輝きがあってほしいという気持ちがかすかでも残っているうちに、あなたを忘れることにしますね。

親愛なる存在だったMへ。

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